創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

01-20 偉大な伝道師にもなれた人

「広告で人が逆立ちしているところを描いたとする。人が逆立ちしているビジュアルを使うと、大概の読者はそこに目を止めるでしょう。
けれどもその目を止めた次の瞬間に、間髪を入れず説得にまで持ち込むことは非常にむずかしいことです。
しかし、もし私がその広告の作成の段階でトリックを使って人を欺いたとしたならば、その読者はそれに対して嫌悪の感を抱くでしょう。
ですから、次は何をするかというと事実の物語りを伝えることです。
たとえば逆立ちしている人のポケットから物が落ちてこない。
なぜ落ちてこないか、ということから製品につながるようなストーリーを次に展開しなければならないのです。
私は、いままでにも何人かのクライアントになってくれる人たちに非常に興味深く聞いてもらいながら、こういう広告の原則というものを話しました」(注:前出「日経広告手帖」)
この、アイデアと視覚表現の関係というのか、あるいはまた、イマジネーションの浪費を避けるための教訓というか、とにかく、じつにわかりやすい寓話は、多くのDDBの人たちに語り継がれ、やがてはDDB以外の人も自由に引例するようになっています。
ところで、こうした寓話をビジネスマンに向かって話す時のバーンバック氏について、ゲイジ氏が描写している文章があります。
「ビル・バーンバックは、私の知るかぎりでいちばんすばらしいセールスマンです。
見込み広告主と話す時には、相互に共通する点、同意し合える点を見つけるように会話を持って行きます。
そして、その点を見つけると、腰を入れてはじめるのです。
彼は、自分がやっていることの正しさを確信しているので、彼のその確信ぶりが相手を圧倒してしまいます。
彼は、伝道師にもなれた人です。それも、偉大な伝道師に。
いま彼は、広告の魂を救っています」



追記:
バーンバックさんの、この逆立ち→ポケットからものが落ちない---という説明は、じつは、大いにクリエイティブで、しかもいたずら好きのDDBerをいたく刺激しています。

ものが落ちないポケットでなくても、理のとおった逆立ちの写真は使いうるはず、と、そのビジュアルと説明をいろいろ考えて、現実の広告に使っています。

VWビートルをひっくり返したシローイッツさんの広告もその一つです。
http://d.hatena.ne.jp/chuukyuu/20070319/1174275540

もっと直接的な例は、明日の[息ぬきタイム]に掲げましょう。