一方、幹部コピーライターであるディロン氏は、DDBにおける自由というものを、広告ビジネスの歴史の中に位置させて話してくれました。
「代理店業の歴史は、新聞が広告を掲載してくれるような広告主を持ってきた人に15%のコミッションを与えていた時代に始まりました。
それが少したつと、その中のある者が刺激用にとお得意の広告を書くことを思いつき、それ以来広告をつくるというサービスが始まったのです。
そして広告はクライアントへのサービスとして書かれました。
だから現在も多くの代理店が当時のやり方を残していて、ライターに冒険させるだけの自由を与えていないのだと思います。
DDBは、バーンバック会長が始めて以来ずっと、いわゆる代理店風なやり方とは別な方向を進んでいます。
というのは、バーンバック氏はグレイ社でコピーライターとクリエイティブ・ディレクターをやっていたことがあるので、よい広告と悪い広告の区別をつけることができるのです。
VWの広告の歴史を見てみれば、それがよくわかっていただけると思います。
大体アメリカでは、ほとんどの広告代理店は大きくて力強く美しい広告をつくってそれでよしとしています。
ところがDDBにVWのキャンペーンの仕事がはいってきた時、その担当をしていたクローンとバーンバック会長は、大衆のほうがVWのことをよく知っており、そういうVWを人々が信頼し興味を起こすようなやり方で表現したほうが、うまく行くだろうと考えました。
そして、バーンバック氏は、こういう態度を全ての商品に適用すべきだと考えています。
彼は常に広告において最も重要なのはその信頼性であるといっています。
そしてこれこそDDBを他の多くの代理店と異ならせ、表現の自由をつくり出している点ではないでしょうか。
私たちは、クアイアントがその商品で人々の関心を買うような点はないかと、常に探してみます。
これが、よその代理店からきたライターにとってはこのうえない自由を提供することになります。
ところが、この自由をどう扱っていいかわからないというのが入社当初の感じじゃないでしょうかね」