創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(16)「コピーとアートの結婚を語る」(前編)

レオン・メドウ DDB副社長兼コピー部アドミニストレイター
ベン・スピーゲル DDB副社長兼アート部アドミニストレイター

DDBニュース』1968年7月号に載った同誌編集長によるインタビューを、許可を得て『DDBドキュメント』に翻訳掲載…同書からの転載。

広告賞は広告の効果を反映しない

問い「メドウさんは、コピー部という大世帯のアドミニストレイターでいらっしゃいますね。そして、いつもコピーを書いているというわけではありませんね。
それなのに、広告業界の同僚たちは、あなたを大コピーライターの一人に選んだ…」

メドウ「ええと、彼らは、私がベター・ビジョン協会の仕事で得た栄光に影響されたんですよ。あの仕事は、実際あらゆる広告賞をさらいました。
でも、アートディレクターのレン・シローイッツといっしょだったから賞がさらえたのですよ。


【訳文】    
これは点字です。「あなたはたった一組の目でずっとやってきたんです。年に1回かそこらは検査してやんなくちゃあ」と書いてあります。


>>ベター・ビジョン協会のほかの広告はこちら


>>ベター・ビジョン協会、広告キャンペーンのアートディレクターである、レン・シローイッツ氏のインタビューはこちら

あの仕事は、たぶん、私が広告界にはいってからずっとやってきたどの仕事にも増して、この業界に私の名を広める力をもっていました」

問い「おっしゃっているのは、賞を得ることは、単に才能の問題ではなくて、すばらしいキャンペーンを手がけうるかどうかの運によるということのようにも聞こえますが…」

メドウ「賞について問題になることの一つは、人間だれでも賞をもらうのが好きだということ。自分自身のことだけを考える人たちによって審査が行われることです。
『ぼくがあれを書いていたら』とか『自分がこれをアート・ディレクトしていたら』と考えるけれど、『製品をよく売るだろうか』とは考えないのですよ。
一般に、広告賞は、作品の真の目的とその効果を反映したものだとは思いません」

コピーライターとアートディレクターの仲人

問い「コピーとアートのチームの割当てをする時、どんなことを考慮して組ませるのが最も大切ですか? 欠けているところを補足するやり方? それとも気性ですか?」

スピーゲル「レオンと私は、一緒になって、その人たちが有機的に両立できるか、確かめます。才能上の見地からもね。
われわれは、それぞれに、その仕事が適当と思われる人間を選び出します。彼らは、気性の面からいって、一緒に仕事ができるだろうか、と…」

問い「いままでに、『私にはできない』といってきた人はいましたか?」

スピーゲル「ありますよ。『私はあのアートディレクター、またはライターとはとても一緒に仕事はできない』といって戻ってくる人はいますよ。これは有機的な原因のほうですね」

メドウ「この《コピーライターとアートディレクターの結婚》というのは、非常に親密な関係なんです。
2人を一室に入れておくとしますね。お互いにじっと見つめ合って、問題に取り組む方法がこうだからとか、身体上のせがこうだからとか、小さいことまで検討して、2人は気分的にもうまくやれると結論するのです。
そこで私は、彼らに、これは大変幸せな永遠に続く結婚なんかではなく、よい広告をつくるためのものだとといってやるのです」

スーパバイザーは内部から登用する

問い「チームワークが非常にうまくとれているとわかったら、永久に組ませておくのですか?」

メドウ「いいえ、それは不可能です。永久に組んで仕事をやらせると、結果として、その部の組織は硬直状態に陥ってしまうでしょう。
われわれは、それができる場合には、彼らを組ませておきます。でも、部を動かして行くにあたっては、そのほかにもいろいろ考慮しなくてはならないこともあるのです。
一つには、それぞれの人間への仕事量の配分を優先して考えなければならないし…」

問い「そのチームが、あらゆる賞をかち得たとしても?」

メドウ「そんな時でも、私たちは、彼らを一緒にしておいて、ほかの者たちとは仕事をさせないなんてことはやりません。
それに、彼らは、いつも一緒にうまく仕事をし続けることはできません。そのようなチームでも、しばらくすると、どちらか一方の側に新しい血を吹き込むことが必要になつてくることもありますね。
もう一つの有効な方法は、老練なアートディレクターを連れてきて、あんまり慣れていないライター、またはその逆でもいいんですが…と組ませるのです。チームに、あまり慣れていない面をもたらすためです」

問い「老練な人は、障碍になるということですか?」

メドウ「いいえ。彼らがプロなら違います。彼らのほとんどは、彼らが二重の役割を持っていることを理解しています。
一つは、よい広告をつくること。
もう一つは、部自体を向上させるために貢献することす。
われわれは、ここにいる立派なライターや、アートディレクターが、彼らの知識の多くを、若い人たちに分かち与えたからこそ、存在していられるのです。
少なくとも、われわれの成功の98%は、この代理店の内部からもたらされたものです。
われわれは、アート部やコピー部に、スーパバイザー格の人を雇い入れることはめったにありません。
われわれの会社のスーパバイザーは、かつて若いライターやアートディレクターだった人たちです。
そして、伝統と知識は、かわるがわる、初心者に受け継がれて行くのです」


「コピーとアートの結婚を語る」(後編)>>