創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-13 相手を一人の人間として尊敬すること

DDBのペア・チームによる広告づくりが日本に紹介されて以来、似たような形でクリエイティブ・ワークを進めるところが出ています。中には,糸川博士のいわれるように,観念の固定化を破ろうという意味でペアを運営しているチームもありましょうが,あまりうまく行っていないところもあるようです。
その原因はいろいろありましょうが、一つには、二人の関係をタテに並べる日本的慣習が災いしていることはないでしょうか? 
パーカー夫人もいっているように、「副社長の地位にあるアート・スーパバイザーが、ぺいぺいのコピーライターと組んで仕事」をする場合でも、ペア・チームで仕事を進めている瞬間は、対等の関係、すなわちヨコに並ばなければうまく行かないと、糸川博士も強調しておられます。
「タテに二人が並ぶと、いわば兄弟や親分子分の関係になって、変化は起こりにくくなり、発送は単純化される」(注・『一仕事はペアシステム(二人三脚)で』「実業の日本」・1968年9月1月号)
ヨコに並ぶためには、ペアを組む心構えが必要になります。
ロビンソン夫人が、先に引用した講演の中で、自由の問題に続いて、ペア・チームの相互尊敬のあり方を話しているのも、そのためでしょう。
「もう一つ必要なのは、尊敬することです。
まず第一に、相手を一人の人間として尊敬することです。
また、彼のアイデアや意見をも尊敬しなくてはなりません。

とくに、お互いの意見が全く食い違ってしまった時には…(あなたと彼のアイデアが似ているものでしたら、話は簡単なのですが…)。

それが私たちのやり方のなのです。
一緒に仕事をする相手を尊敬する──彼のアイデアを…たとえそれが相容れないものであっても…またたとえそれが未完成であったり、試みにつくったものであったとしても…。

また、話し方がおかしかろうと、彼のネクタイが好みに合わなかろうと、彼が大学出でなかろうち、髪が長すぎようと(あるいは短すぎようと)、肌の色が違っていようと…。

彼の個性を、そして特有の表現法を尊敬しなさい。
これは、一緒に仕事をするライターとアートディレクターにとって、どうしても必要なものです。

時としてあなたは、他の人びとが意見を戦わせているのを聞きながら、長い時間じっと腰をおろして静かに考えをまとめなければならないことがあるでしょうし、ある時には、辻褄(つじつま)が合わない話をうまく片づけなければならないこともあるでしょう。

本当にクリエイティブな環境にあっては、相手がどんなに愚かしく見えても、面倒くさくても、いらいらしても、お互いに自由を尊重し合いながら一緒に仕事を進めて行くために、深い尊敬の念をいだかなければなりません。

こういったつまらないおしゃべりや雑談から、すばらしいアイデアが生まれないという保証はどこにもないのです。