創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(14)「レイアウトを語る」ヘルムート・クローン インタヴュー(その2)

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ガートルード・スタイン風』コピーの組み

問いVWビートルの広告は、コピーの外見もかなり変わりましたね。前にも一度話したことのある《未亡人》(chuukyuu注:日本でいうクワタ…行の途中で文章が終わり、できた余白)の使用で…」


クローンVWビートルの最初の広告をつくる時、実際にカミソリの刃を使って切り、《未亡人》をつくり、それをコピー・ブロックに貼りこんで、コピー担当のジュリアン・ケーニグに示して、こうなるように書いてくれと頼みました。
コピー・ブロックが四角く固まってしまうのを、意識的に避けたのです。
2つに分けられると感じた文章は、そのことをジュリアンに言って、もう一つの段落をつくりました。
コピーの組み方を、ガートルード・スタイン風(米国の女流詩人)に見せたかったのです。このレイアウトは、現実に、新しいコピーの組み方に影響をおよぼしました。


図:ガートルード風とグレイ・マッス
ガートルード・スタイン

グレイ・マッスNo.2の組み
   
のちに、バーンバックさんが《主語・動詞・目的語》と呼んだ、あのコピーの書き方です。

問い「すると、コピーよりもレイアウトが先行したということですか? 紙面でこう見えなければならないから、ということで生まれたコピー文章ですか?」

クローン「確かにそうです。これ以前には、コピーライターに《ウィドー(未亡人)》を埋めさせるのが、通常、アートディレクターの仕事でした。
紙面にきちんとしたNo.2風のうすいグレー・マッス(灰色の塊)をつくるためにね。
レイアウトに関するかぎり、…もう失われたアートだと、ぼくは考えていますが…斬新な紙面、相も変わらない古臭い要素を切り変える方法、7×10インチのスペースを打ち砕く新手法などを探索するような奇特なご仁は、そうそうはいないでしょうよ」

『新しい』ということは…

問い「捜さなければいけない、とおっしゃる?」

クローン「そうです。でも、人というものは、時代の風潮に沿いたがります。安全だからでしょうね。彼らは、自分たちがすごく気が利いていて、何がよいもので、何が《イン》なものか知っているぞと見せびらかしたいのです。
流行を追うこと、当世風になることが新しいことだと考えているのです。
それは、『新しいこと』の正反対なんですがね。
アートディレクターズ・クラブで賞を受けたとしても、それは革新的な仕事の証明にはなりません。いや、ぼくが貰ったほとんどの賞についてもいえることなんですよ。
賞というものは、1年も2年も前の、古くなってしまった、だからこなしやすくなった新機軸に対して与えられるものなのです。
『これも、いつもと同じよい出来だネ』と人びとがあなたに言ったとしたら、そこで、まだ駄目なんだなとおもわないと、ね。
『新しい』とは、あなたがたったいま、一枚の紙に書いたばかりのものが、前には一度も見たことがないものだった時にいうことです。あなたも前に見たことがないし、また、世界中でだれ一人として、おなたが紙に書き表したばかりのものを見たことがないということです。
そして、それが『新しいもの』であるなら、それに関してあなたが知っていることは、それがまったく『新しい』ということです。
あなたのそれまでの人生の中で見たことのあるものとは、全然関連がないのです。
そしてその真価を判断するのは、すごくむずかしいことです。
あなたも、ほかの人たちもそれを信用しません。そこではほかの誰かがあなたに、その作品には長所があるといわなければならないことがよくあります。
なぜなら、あなたには参照するための規準もなく、あなたか、あるいはほかの誰かが前にしたことのあるものと関連づけることもできないからです。
ニュー・スクールの、アレクセイ・ブロドヴィッチが、ぼくに『新しいこと』を教えてくれた人でした。生徒たちは、自分が画期的だと思う作品を教室に持ってきたものです。でも、ブロドヴィッチ先生はそれらを放り出してしまこういいました。『これもどこかで見たことがある』、そして先生は、それらについて語ろうとしませんでした。

問い『先生が一度も見たことがないものを、あなたが作った時のブロドヴィッチ先生の反応は?」

クローン「先生のクラスにいた時は、先生が見たことのないものはつくれませんでしたよ。まだ、そこまで行ってなかったんです。
さて、『新しい』ということについては全部お話ししました。
ここでちょっと矛盾しますが、『自分自身の作品をつくる』という現代の風潮に話題を移したいと思います。
最近、DDBのライターの一人に、自分自身の作品をつくることと、できるだけ立派な広告をつくることと、どっちがより重要なことかと聞いてみました。
彼は、『自分自身の作品をつくる』と答えました。
ぼくはこれに、断固反対します。
ぼくは、ぼくたちの時代のために、新しい考え方を提案したいと思います。つまり、先輩のものより、よい解答を得るまでは、模倣するということです。
ぼくは5年間、ボブ・ゲイジの真似をしました。
ボブ・ゲイジは、もともとポール・ランドの、そしてポール・ランドはドイツのチャイコルドというタイポグラファーの真似をしたのです。
仕事を得たときになすべきことは、正直な解答を見つけることです。課題を解くことです。そうする間に、何年か経て、個性的なスタイルが浮かんできても、あなたが自分でそれを知るのは最後でなければなりません。
あなたはそれを意識していてはいけないのです」

ヘルムート・クローン インタヴュー(その3)>>