創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(13)「レイアウトを語る」ヘルムート・クローン インタヴュー(その1)

ヘルムート・クローン(Helmut Krone) 前DDBアソシエイト・クリエイティブ・ディレクター

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肩書に「前」とふったのは、1969年に退社し、ケイス&クローン社を開設したから。ちなみにコー・パートナーのケイスはジーン・ケイス氏で、やはりDDBでアシスタント・コピー・スーパーバイザーだったご仁。
DDBからマッキャン系のジャック・ティンカー社へ移り、その後、ケイス氏と組んで小広告代理店を立ち上げたが、クローン氏はDDBへ戻ってしまった。ケイス氏のその後の消息は知らない。

テキストは、クローン氏のDDB時代の1968年9月号『DDBニュース』から翻訳し、『DDBドキュメント』(誠文堂新光社ブレーンブックス 1970.11.10)へ収録したものからの転載。

クローンは完全主義者?


問い「あなたは完全主義者だそうですが…?」


クローン「そんなレッテルを貼られたら憤慨しますよ。完全主義者っていうのは、引き出しの裏側にまで磨きをかけるような人のことで、ぼくは、そんなことまでやる必要は全くないと思っている男です。
表側を仕上げるための時間はかなり費やしはするけれど、引き出しの裏側にはまるで興味を感じません。
想定上の線があって、自分がその線を越えた、と感じたら、ぼくはそこで止めます。それ以上、先へはすすみません。線を越えたら、やりすぎないうちに、止めてしまいます」


問い「ということは、ある基準を持っていて、そこに到達したらストップすると…?」


クローン「そうです。ほかの人たちと同じにね。まあ、他の人たちの線は、ぼくのとは別のところにあるのかもしれませんが。その線をどこに引くかによってすべてが違ってくるんです。
たとえば、テレビCM制作に関しては、だれがなんといおうと、自分がやかまし屋であるとは思いません。
ぼくが狙った効果がでていれば、それでいいのです。ごく些細な修正には関心がありません」


問いDDBが最初にフォルクスワーゲンのアカウントを獲得した時、あなたはどういうわけでその仕事をすることになったのですか?」


クローン「社内で、あの車について何か聞いたことのある、ただ一人の人間だったからです。ぼくは、初めて米国へ入ってきたVWビートルに乗っていたことがあるんです。たぶん、当初の100台の中の1台ですよ。DDBで働くようになるずっと前のことですが…。
で、人間というものがどのくらい誤りを犯せるものかを、また、ぼくがどれほど誤りに陥りやすい人間であるかを明らかにするために、VWビートルのキャンペーンに、あのように立ち向かったのです。
あの醜く小さな車のためになすべきことは、車をできるかぎり米国風にもそれもできるだけ早くそうすることだと思いました。ダイナ・ショアで行こう、って具合に。
彼女がよく唄っていたのはどんな歌でしたっけ? 『シボレーに乗ってアメリカを見よう』…ぼくは『VWに乗ってアメリカを見よう』とやりたかったのです。
車のまわりにモデルたちをめぐらせて、テレビで派手に、ね」

フォルクワーゲンの広告には1/3の貢献


問い「しかし、あなたが広告の外見を変えたのはフォルクスワーゲンの広告でしたし、コピーの置き方も変えられましたよね」


クローン「ええと、まず、こういわせてください。
ぼくは、VWVビートルについて自分たちは間違ったことをしている、と強く感じていました。もちろん、ぼくもあの広告に1/3の貢献はしていたのですが…。
それで、3本の広告をつくりあげると、意気消沈してセント・トーマス島へ出かけて休暇を過ごし、2週間して戻ってきました。
すると、ぼくはスターになっていたのです」

第1弾の広告


【訳文】
フォルクスワーゲンは変わるでしょうか?


答えは、イエスです。
フォルクスワーゲンは、1年を通じて間断なく変化しています。1959年1年間だけでも80ヶ所も変わりました。
しかし、どれも目には見える変化ではありません。私たちは、はやりすたりをよいことだとは思っていません。私たちは変更のための変更などはいたしません。ですから、この勇ましくて小さなフォルクスワーゲンの外形は今後もずっとこのままでしょう。不恰好なししっ鼻も、ずっとこのままでしょう。
この車は優秀ですが、さらによいものにするような方法を、私たちはいつも探しています。たとえば、ドレイン・プラグに永久磁石を取り付けました。金属粉はこの磁石にくっついてしまうので、オイルの汚れが防げます。
シフトは、いうまでもなく世界中でいちばん優秀です。しかし私たちは、これをもっと滑らかにする方法を発見しました。クラッチ・プレート・ライニングに特殊鋼のバネをつけたのです。
フォルクスワーゲンは過去11年間という歳月以上に変化しています。しかし、その心臓や外形は変わっていません。
VWのオーナーは、その車に何年も乗っています。自分のVWが新車とほとんど同じ価値があることを存じなので、安心していられるのです。


【原文】
Is Volkswagen contemplating a change?


The answer is yes.
Volkswagen changes continually through-out each year. There have been 80 changes in 1959 alone.
But none of these are changes you, merely see. We do not believe in planned obsolescence . We don't change a car for the sake of change. herefor the doughty little Volkswagen shape will still be the same.
The familiar snub nose will still be intact.
Yes, good as our car is, we are constantly finding ways to make it better.
For instsnce, we have put permanent magnets in the drain plug. This will keep the oil free of tiny metal particles, since the metal adheres to the magnets.
Our shift, we are told, is is the best in the word. But we found a way to make it even smoother.
We riveted special steel springs into our clutch plate lining.
The Volkswagen had changed completely over the post eleven years, but not its heart or gface.
VW ownerskeep their cars year after year, securein the knowladge that their used VW is worth almost as much as a new one.


問い「1/3の貢献とおっしゃいましたが、半分じゃないんですか?」


クローン「ぼくが1/3、ビル・バーンバックが1/3、コピーライターのジュリアン・ケーニグが1/3ということです(chuukyuu注:ケーニグ氏は、VWのキャンペーンのスタート後、早ばやとジョージ・ロイス氏とともにDDBを退社して、パパート・ケーニグ・ロイス代理店を創設した)。」


問いバーンバックさんが1/3貢献したということは、どういう意味で?」


クローン「主として、ぼくをほかの仕事から解放してくれたということです。また、簡潔に、明確に、バーンバックさん独特の魅力を加えて、語るという全体のコンセプトですね。フォルクスワーゲンのアイデアは、それを車に適応したということ以外には、とくに新しいということは何もありません。
確か8年前だったと思いますが、バーンバックさんはフェアモント苺(いちご)の広告をつくったことがあります。
その広告で、あの人は、大きな紙面の真ん中に苺を、それも実物大の苺を一つだけぽつんと置いてみせました。ヘッドラインはこうでした。


『これを切り刻むなんて、可哀そうなことに思えました』


これはただ、マーケットで苺を売るだけが目的の広告でした。そしてこのポイントは、苺をそのままの形で保存するには、苺は完全なものでなくてはならないということだったんです。
フォルクスワーゲンの広告も、彼がずっと前にやったその広告と少しも異なりません。
違うのはただ一つ、それが車に応用されたということで、これはこれだけで十分に大きな違いです。
ぼくは伝統的なレイアウトAを採用しました。これは普通、よく使われているものです。
紙面の2/3が写真、1/3がコピー・プロック、その間にヘッドラインを入れて、コピーは3段組みというレイアウトです。
ぼくは写真を変えました。回りにごたごたとものを置かずに、一切、飾り気なしで車の写真だけを見せました。
ほかに少し変えたことは、コピーをセリフ(ひげ)のある字体でなく、サンセリフ体で組んだことです」


問い「あなたの前には、だれもそういうことはやらなかったのですか?」


クローン「このレイアウトでは誰もやりませんでした。エディトリアル風でサンセリフを使うというのはね」


ヘルムート・クローン インタヴュー(その2)>>




(chuukyuu注:クローンが用意してた休暇に行った3本の広告のうちの第2弾目の広告)

第2弾目の広告


【訳文】
なぜ、エンジンが後部にあるのでしよう?


(本文略)


ロバート・ゲイジの秘書のミズ・ラーマンが送ってくれたリストには、この広告のみに制作チームとして、バーンバックさんの名前を、クローン氏、ケーニグ氏とともに挙げていました。
ということは、ウルフスブルク工場でのキャンペーン制作前の最初のオリエンテーションに、バーンバックさんも行き、全体のコンセプトを固めるときに意見を言い、この広告を提案したのだと想像しています。


VW(フォルクスワーゲン)ビートルのこのほかの広告をご覧になりたい方は…
>>発想のバイブル 一人ひとりのバイブル

If you want to see another advertisings for VW(Volkswagen) Beetle...
">>A Bible of Creativity, A Bible for All"


【ひとりごと】
VWビートルとエイビス・レンタカーのキャンペーンのレイアウト・フォーマットについて、このインタヴューで、クローン氏は、
VWの広告は20歩離れてもわかる。エイビスの広告は30歩離れても見分けがつく」といった意味の発言をしている。(>>9mと12m


読んだときは、「なるほど」と膝を打った。
が、FOXのキャンペーンを見て、「クローン氏ほどの力量の持ち主でも、自分の発言にしばられるか」と思ったものだ。


関連リンク(links):
>>Helmut Krone. The book
>>Helmut Krone, Period.(by Michael Bierut/Design Observer)
>>Meet Helmut Krone