創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(10)ロバート・レブンソンのインタヴュー(その3)


『みごとなコピーライター』より


<<ロバート・レブンソンのインタヴュー(その2)


◆クリエイティブ・エイジェンシーの将来


chuukyuu 「米国におけるクリエイティブ・エイジェンシーと、その将来についてどうお考えですか?」


レブンソン「いわゆるクリエイティブ・エイジェンシーというのは、米国でますます伸びてきています。今後も伸び続けるだろうと思います。


というのは、私たちのところを辞めていった人たちが、いわゆるいままでクリエイティブ・エイジェンシーといわれていなかったような古いタイプのエイジェンシーに引き抜かれていっています。これがひとつの例証になります。


それからまた、私たちのところを辞めていった人たちが、自分たち自身でクリエイティブ・エイジェンシーをつくった子どものエイジェンシーが、さらに子どもを生んだ、というような形もかなりあります。いってみれば孫エイジェンシーというのが出てきているわけなんです。


これは何に原因するかといいますと結局、一般の産業界が、お互いの競争に勝つため、自分たちの製品を消費者に対してよりいっそうアピールさせるために変わった形、新しい形の広告を要求しているからなんです。


現在では、すべての製品は、大体似たり寄ったりになってしまって、あるものを使っていて、それを別の銘柄に変えたからってどうということはない、まったく同じようなものになってきている、似てきてしまっているといえます。


ある製品の製造プロセス、その成分、そういうものはみな同じです。製品のマーケティングに関するリサーチの方法も同じですし…。まあ、このように、すべての条件が同じになってきているんですね。


そうすると、いざ競争という段になった場合、あとは、その差をどこでどう出すかというと、広告の方法で差を出すよりほかに手がないことになってくるのです。


結局、すべての負担が、広告ということに、広告代理店に押し寄せてきます。競争相手のあの商品よりも、こっちのこの商品をお客さんによりよく記憶させる、よりよく目立たせるという仕事が全部、広告代理店の肩にのしかかってくるわけなんです。


従来のような方法、古い形の広告では、とてもそれはできない。そこで、どうしても、いわゆるクリエイティブという形の広告が必要になってきたのです。


ですから現在では、昔からある大きな代理店、トンプソンだとかマッキャンとかでも、従来と違った方法を取らなきゃならなくなってきていますね。


いろいろ、新しい人間を雇って、特別なディビジョンをつくって、クリエイティブの部門とか、下請けのようなものをつくったりして、新しい時代の要請にこたえようとしています。つまり、昔はとっていなかった方法、なんらかの新しい形で大衆に訴える、商品をアピールさせる、というような方法を大きな代理店でさえ、とるようになってきているのです。


それから、クリエイティブということの重要性のもうひとつの実例をあげますと、ごく最近になって、大きな代理店で、クリエイティブ出身の人間が社長になっている例が、だんだん現れてきいることなんです(ヤング&ルビカムのステファン・フランクフルト社長などのこと)。


こういうことは、5年前、いや1年前ですら、あまり例がなかったことです。しかし、これから2,3年後には、もっとその方向へゆくでしょう。その傾向が進んで、クリエイティブ出身の人間が、頭になるということになると思いますよ。


しかし、物事には振幅というものがありまして、クリエイティブ・エイジェンシー全盛時代が、やがていつか終わりにくるんじゃないか、そして振子が逆に動くんじゃないかと、私は、どうもそんな感じがするんですがね。


たとえば、あるエイジェンシーが、ある日突然、クリエイティブを主としたやり方はもういい、もうたくさんだよ、むしろこれからはリサーチ、それからマーケティングの方にウェイトをおいて進めるべき、と言い出すかもしれない。だから、私たちとしても、その方面に対しての関心を怠ってはならないと思います。


このマーケット・リサーチ、また新しい商品開発の方面のアプローチが、これからは非常に重要になるだろうと思いますけれども、だからといって、必ずしも、この振子がまったく反対側のほうへ進んでしまって、もはやクリエイティブの広告は必要ないだとか、そこまで振子が逆に進んでしまうとは思いません。


というのは、先ほどもいいましたように、現在では、いろんな種類の商品は、非常に似かよっています。値段も似ていますし、性能も似ていますし、製造工程、内容、形、色、みんな似ています。


そうなると、これに唯一の差をつける方法というのは、まさに広告、ということになりますから、その点では、クリエイティブの広告というものは、絶対なくなってしまうことはないと思います。


そんなわけで、いわゆる経済界の基本的な要請がある以上、クリエイティブな広告というものの存在が、まだこれからも長く続くと思います。


スーパーマーケットがどんどん大きくなって、いろんな似たような商品がはいってきますから、それらを売るためには、それぞれなんらかのユニークな売る方法を考えだしていかなきゃなりません。


結論的に言いますと、私たちの代理店は、このクリエイティブの分野では、やはり、ある種のリーダーといっていいんじゃないかと思います。この先しばらくは、この地位を保つんじゃないかと思っています。


それは、すなわち、基本的にはクリエイティブという面、そして、ある種の、ある程度のリサーチ、マーケティング、というものに基づいた私たちの地位、という意味です。」


>>ロバート・レブンソンのインタヴュー(追補)