創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-10 ペア・チームの中のパーソナリティー

また、ペア・チームがうまく行かなかった場合はどうするのでしょう?
幹部コピーライターのレブンソン氏に尋ねてみました。
chuukyuu「あなたは、これまでにたくさんのアートディレクターと組んで仕事をなさったと思いますが、正直なところ、アートディレクターによっては、やりやすい人とやりにくい人とがあるのではありませんか?」

レブンソン「もちろん、時にはなかなかむずかしい問題がありますね。お互いに意見が食い違うようなこともありますし、意見の食い違いが容易に調整できないこともしばしばです」

chuukyuu「そういう時にはどう解決するのですか?」
レブンソン「まあその時は、上の段階、スーパバイザークラスのところへ持って行って意見の調整を図ってもらう。で、さらにその上、ボブ・ケイジがクリエイティブ・ディレクターをしていますから、彼に意見を求めるという場合もあります。
もっと上、最後にはバーンバックさんのところへ行くなんてこともあります」
同じ質問を、1946年の大統領選挙の時、民主党全国委員会の依頼でジョンソン=ハンフリー・チームのキャンペーンを担当して、政治広告のやり方を変えてしまった幹部コピーライターの(スタンリー)リー氏にしてみました。

chuukyuu「やりやすいアートディレクターというのは、あなたの場合、どんなタイプの人ですか? やりやすいという意味は、常にすばらしいアイデアに到達するという意味です」
リー「なかなかむずかしい質問ですね。パーソナリティの問題に関係してきますからね。
私としては、あんまりクレイジーな人とは組みたくありません。アートディレクターの中には、才能はあるれけどクレイジーな人がいますね。

もちろん、コピーライターの中にもいますが……。
私は、私の批判を建設的なものとして受け入れてくれる人と組んでやりたい。傷つけられた…といちいち感じられてはたまりませんからね。
と同時に、私のアイデアに対して徹底的に批判して建設的な方向に導いてくれる人を好ましいと思います。
というのは、私たちはいつも、アイデアというものをめぐって仕事をしているわけですから、自由な意見の交換があることが望ましいのです。

一人の人から出たアイデアが常に正しいとはかぎらないですからね。ですから、お互いに相手のアイデアを磨いて行くという態度が必要なんです」
chuukyuu「やりにくいアートディレクターと組んでしまった場合、DDBではチームを組み替えることができますか? アートディレクターのほうも、やりにくいコピーライターを替えてもらうことができるのですか?」
リー「コピーライターとアートディレクターの仲がうまくいかなかった場合、それが非常に深刻な問題になった場合には、どちらかが、『私は、こういう人とは一緒にやって行けない』と申し出るわけです。

私も実際そういう経験をしたことがあります。ただ、私の場合には、『彼を替えてくれ』とはいわないで、がまんしました。
そして、8ヵ月ほど、彼と組んで仕事をしました。8ヵ月後にキャンペーンが出来上がって一段落ついたものですから、危機が峠を越えました。
その仕事がきつかったため、私は胃を悪くしたこともあって話し合いになり、結局、彼のほうがそのアカウントから離れました。
この場合は、たまたま締切りがあってそれに間に合わせたあとだったので、そういうことになったのですね。
クリエイティブ・チームの場合には、ずいぶんそういう話を聞きます。組合せがうまく行かない…組合せを替えたい…と。これはちょうど男と女のようなものですね」