創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-07 人々とコミュニケートする方法を…

(レオナルド)シローイッツ氏は、DDBの幹部アートディレクターの一人であり、ソニーVWの広告をつくってきた人です。
彼は、バーンバック氏から学んだものとして、
「とても多くのものを学びました。アイデアのエッセンスをつかむ方法、人々とコミュニケートする方法、いかに売るか…といったことなどです」
と答えています。

イデアのエッセンスをつかむ方法…については、すでに前項で説明しました。
人々とコミュニケートする方法について、彼はどのように教わったのでしょうか? 
彼が1967年春に、チューリッヒに招かれて、ヨーロッパのグラフィック・デザイナーたちに行った講演から推測してみましょう。
DDBの成功の秘密の一つは、私たちがどのようにすれば読者の心に、頭脳に、そして最終的には財布の中まではいり込むことができるのかを知っていることにあります。
DDBはどのようにすれば読者の目を引き、DDBの広告に引き込み、そしてDDBが彼らに告げたいと思っていることを記憶させることが出来るかを学びました。
DDBは現代のアメリカにおける最大のムダの一つは、効果のない広告に費やされるお金であると信じています。
ライフ誌の一ページの広告料は5万ドルですからね。

DDBはまた、読者を尊敬し、彼らに教養ある人間として訴えかけねばならないことを学びました。
決して見下したような調子で語りかけてはなりません。
この点に関する最もよい例は、VWキャンペーンの驚くべき成功です。
最初の出発点から他の広告代理店は彼らが最低・最大公約数と見なしている人々にアピールするように努めたのに対して、DDBは彼らを同等の人間として扱い、呼びかけました。
DDBでは、真実のそして信頼できる広告ということを主張します。
私たちは人間にかかわる、実生活から生み出された広告をつくるように努めています。
これはアイデアによってのみ達成できることで、グラフィック・デザインやトリックによってではありません。この点を特に強調するのは、私がいつもヨーロッパの代理店の仕事を、ヨーロッパ年鑑によって見て知っているからです。

私にいわせれば、それらの仕事はアメリカの美術学校で行われている仕事以上のものとは思われません。
それはセールス・アイデアとはなんの関係もないグラフィック・テクニックの集積でしかありません。
私はヨーロッパの広告の伝統がデザインされた色彩豊かなポスターにあることを知っています。
しかしながら、これらのポスターと、製品の長所を巧みに限定・強調して公衆にそれを買わせるような広告との間には、ほとんどなんの関係もありません。幾らかの例外はあるものの、私にいわせれば、ヨーロッパでは、アイデアよりもグラフィックを優先させすぎています。
皆さんは、言葉に対してほとんど関心を払っていません。
一つの広告の中に両者の技術をどのように結合させるかをご存じない。
皆さんはアイデアを一つの巧妙なシンボルと考えています。
しかし一般の人たちはそのようには考えません。皆さんは暖かみとか感情とかをほとんど表現していません。
これではコミュニケーションとはいえません。
広告ともいえません。
もしあなたがこのように行動するなら、あなたは広告人ではありません。
あなたはデザイナーです。ページデコレーターです。
あなたはあなたの言葉ではなく、彼らの側の言葉で彼らと話し合うことを学ばなくてはいけません。
あなたは人々が感じていることを学ばなくてはなりません。
あなたは時代の体勢を見のがしてはなりません。時代とともに動き、できることならそれより一歩先んじていなくてはなりません。

あなたの仕事を最も邪魔しているものは、私にいわせれば、あなたが自分自身を自分のつくった広告を読む人たちとは異なった種類の人間だと考えていることです。多分あなたは、自分はより上等の人間だと考えているのでしょう。あなた自身とあなたのつくる広告を読む人たちを同等に考えなさい。
そうしてこそ、必要なコミュニケーションを始めることができるでしょう」(注・前出、チューリッヒでの講演)。