創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-05ペア・チームの職務範囲


なぜこんな方式が採られるのかといえば、DDBのクリエイティブ・ワークは、コピーライターとアートディレクターによるペア・チーム制で進められるからです。
クリエイティブ作業が踏まねばならないほとんどの段階が、ペアで進行するのです。


パーカー夫人の言葉に従えば、
DDB社の社員は、一人一人が任されたアカウントに責任を取るのは、自分だけだという責任感にあふれています。
この場合、アカウントというのは、アカウントの広告活動に使う媒体すべて――印刷媒体、テレビ、屋外広告物――のことを指しています。
印刷媒体担当のコピーライターとか、テレビCMのコピーライターという区別はありません。
もし、あるアカウントが大きすぎて1チームの手に負えないという場合には、商品別にチームを分けます。
一例をあげますと、VWのステーションワーゴンは、VWの乗用車とは別のクリエイティブ・チームが担当しております。
このように、私たちの担当はすべて商品別であり、媒体別ではありません」(同)
ということになります。例に出ているVWの場合は、現在6チーム、12人が担当しているそうです。
このパーカー夫人の発言は、多分に意識的なもので、二つの意味を持っています。
その一つは、彼女が来日した年(1966年秋)の春、マンハッタンにある彼女のアパートに招待されて、日本の広告事情について説明したことがありました。
その時、日本では、印刷のクリエイティブ・ワークとテレビのそれとが別々のチームによって進められている、と話したので、それを意識したのでしょう。


もう一つの意味については、別の項で話します。


彼女は、続いてアメリカの他の代理店のやり方をも意識しながら、こんなこともいいました。


「代理店の中には、クリエイティブ・スタッフの一群を一つの問題に割り振り、各々を競争させて、いい作品を生み出そうとしているところも数多くありますが、これは、『自分の考えたキャンペーンが採用される見込みはどうせ薄いのだから、なんで一生懸命仕事に打ち込む必要があるのだろうか』という態度を持たせてしまいます」(同)


同じ意味のことを、VW、エイビス・レンタカーの担当アートディレクターである(ヘルムート)クローン氏は、
DDBが決してしないことは、ある新しいアカウントがはいってきて、20人もの人を同じ問題を解くために取り組ませ、そして、鐘を鳴らすことです(注・「作業やめ!」の鐘)。それこそ、人間の成長を妨げると私たちは考えています。
私たちは自分自身に責任を持たなければなりません。
私たちは広告のにない手であるという誇りを持たねばなりません。
私たちは、ほかならぬ自分たちが勝ったのだということを感じながら家へ帰らねばなりません。
それが人間を成長させる源です」(注・1963年NYADCの会議での講演)


要するに、パーカー夫人がいうとおり、「DDBの社員は、一人一人が任されたアカウントに責任を取るのは自分だけだという責任感にあふれ」させるような仕組みがつくられているといってよいでしょう。