創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(109)ポーラ・グリーン夫人とのインタヴュー(8)

(DDB, Vice President, Management Creative Supervisor)

『みごとなコピーライター』誠文堂新光社 ブレーンシリーズ 1969.7.15)と、つづいてまとめた『劇的なコピーライター』(同 1971.3.10)---現役で、しかも世界中から志の高いクリエイターたちから、仕事の質の高さを尊敬されていた人たち24人に、その実績と創造哲学を語らせた、世界でも前例のないインタヴュー。刊行当時、米国業界誌も高く評価してくれた。
2著からこれまでに転載したのは、インタヴュー時にはDDBerだった5人。グリーン夫人は6人目(もっともこの順序には、なんらの企みもない。なお、既掲載の5人のリンクは文末に掲出)。 


ポーラ・グリーン夫人とのインタヴュー(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)

バーンバックさんから得たもの---率直に発言せよ


chuukyuuバーンバックさんがあなたに話したことの中で、最も印象に残っている言葉は?」


グリーン 「そう---わたしがこの会社に来て、大変びつくりしたのは、DDBには、誠実さというものがみなぎっていて、そして、バックボーンとでもいうようなものが一本通っているということです。
たとえば、クライアントに対して、率直にものを言うこと、率直に発言してしかもこちらからの基本的立場を堂々と主張する、シンがあるということです。
もちろん、その裏づけとなっているのは、この代理店の持っている知性、それから熱情、さらにひとつのウィットといゆようなものなんですが---。そういう点で、わたしは、とても深く印象づけられました。


それから、もうひとつ、わたしが来た当時驚いたことは、最初から皆はわたしに、クライアントと折衝の場合にどんなことでも思ったことを言いなさい、好きなことを言いなさい、率直に意見を出しなさいと言ったんです。
そういうようなミーティングでは、むしろ、できるだけ会議そのものに貢献しなさい、質問もできるだけしなさい、なんでもいいから意見を出しなさいということを言われたのです。とにかく、なんでも率直に表現しなさい、ということだったのよ。


バーンバックさんが言った言葉で、いまでも憶えているのは、広告っていうのは、ひとつのアートである(【注】この言葉、チェックされて帰ってきた英文では、1〜2語つけ加っています。英文でお確かめを)。ひとつのタレントなのだ、ということです。
そして、いつもフレッシュであって、また挑戦的な態度をとること、仕事をする時、いつでもそういう態度でのぞむこと、これが鍵である、と言われたのでした。
また、ものごとの判断、いま自分は何をしているのか、いま自分がやっていることが、どの程度のところまで行けるかということの判断は、やはり直感と経験との2つから出てくるものだと言われました。
バーンバックさんが、広告というものの一面を変えてしまったもということが言えるんじゃないかと思うの。ほかの人の持っていない面、能力を、あの人はたくさん持っていて、広告というものをの一面をすっかり変えてしまった、といえると思います。

エイビスが始めた2位と1位のレンタカー広告戦争から、とげとげしさを和らげているのは、グリーン夫人の今日の言葉にしたがうと、DDBのユーモアかも。


The New Yorker, Apr 23, 1966


If Avis is out of cars, we'll get you one from our competition.


エイビスの車が出払っていたら、
私たちの競争相手からでも
車を調達します。


私たちは気取ってなんかいられません。2位なんですもの。
私たちは同業者中(1位も含めて)に問いかけます。
あなたにお回しできる車を持っているところなら相手かまわず。
空港で、金庫に鍵をかけてでも、競争相手のところへ手当てに行きますよ。
じっさい、あちこちで、頻繁に、見かけていらっしゃるのが、私たちのぴっかぴかのプリマスだとお知りになったら、きっとお驚きになります。
国内では、総計35,000台を常備しています。
ですから、すべてのエイビス車が出払ってしまうなんてこと、滅多にはありませんがね。
(予約をお入れいただいておけば、ご安心です)。
また、私たちの競争相手の車がまわされるご懸念もないわけです。
このことは、エイビスのお客さまにとっていいことであり、それは競争相手も心得ています。
競争相手にはチャンスですからね。


【注】この広告の理解を助ける若干の解説---1位のハーツは、「あなたを運転席に導きます」と、ビジネスマンが飛び降りる写真のシリーズをつづけていた。


ポーラ・グリーン夫人との、もう一つのインタヴュー記録。
いわゆる「DDBルック」を語る(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (了)


DDBのみごとなコピーライターたちとの単独インタヴュー(既掲出分)

デビッド・ライダー氏とのインタヴュー
(1) (2)

ロバート・レブンソン氏とのインタヴュー
(1) (2) (3) (追補)

ロン・ローゼンフェルド氏とのインタビュー
(1) (2) (3) (4) (5) (了)

フィリス・ロビンソン夫人とのインタヴュー
(1) (2) (3) (4) (5) (6)

ジョン・ノブル氏とのインタヴュー
(1) (2) (3) (4) (了)

Interview with Mrs. Paula Green(8)


(DDB, Vice President, Management Creative Supervisor)


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chuukyuu What advice or fremarks by Mr.Bernbach impressed you most?


Green I think my very first experience with this company which absolutely amazed me was the extraordinary and the backbone of the principals of this agency that I had occasion to see in very early dealings here. Their straight forward dealing with clients, their conviction and honesty I was terribly amazed. I did not know that existed. It was always coupled with great intelligence, keen-ness and wit.
They allowed me from the very beginning to be as honest and open with clients. No one ever told me "Don't say anything at meeting, Paula. Don't give you opinion and quiet." Never.
They always presumed me to have judgment and allowed me to contribute as much as possible, ask questions and forthright.
The second thing that impressed me about Mr.Bernbach is that he said "Advertising is not just strictly science that you can put numbers to, but is an art and a talent. And to be fresh and provocative always do a solid job."
And the other thing was that how you know what it is right is in your intuition and experience. Intuition and experience can a couple to give you knowledge of where you are going and why.
Mr.Bernbach has been a remarkable example I think.


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