創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

エイビス03



Avis can't afford
television commercials.
Aren't you glad?

Do you know what it costs to make a television commercial?
About $15,000.
Of course,that includes highway,western sky,car,pretty girls and a catchy jingle to delight the hearts of music lovers.And then you still have to pay for putting it on the air.
Avis hasn't got that kind of money.
We're only No.2 in rent a cars.
What we do have is plenty of decent cars like lively, super-tongue Fords.Plenty of counter with girls behind them who don't think it's corny to be polite.
We have everthing but television commercials.
But business is getting better.
Maybe soon,you won't be so lucky.




エイビスはテレビ・コマーシャル代が
払えません。
喜ばしいことじゃ、ありませんか?

テレビ・コマーシャル1本つくる費用をご存じでしょうか?
約1万5000ドル。
もちろん、その中には、ハイウェイとか、西部の空とか、車、カワイ子ちゃん、
そして音楽好きの心をときめかすような調子のいいコマーシャル・ソング製作費も含まれています。
それを電波に乗せるためには、さらに、放送料も払わないといけません。

エイビスには、そういうお金はありません。
私たちは、2位のレンタカーにすぎないのです。(少略)

私たちには、テレビ・コマーシャル以外はなんでもあります。
業績も上向いています。
近いうちに、あなたは喜んでばかりはいられなくなるかも。


1位のハーツの米国内の広告予算は年に、8,000,000ドル
エイビスも55%アップし、海外分も含めて、5,000,000ドルを当てました。

(広告予算のアップは、プロモーションのためもありましょうが、DDB規模の広告代理店に扱ってもらうには、当初予算が少なすぎたとも考えられます)。

これまでの色刷りをやめて、2位らしくつつましく見えるように白黒単色にし、ビジネス誌をメインに。調査の結果、客の大半がビジネスマンの出張先での利用とわかったからでもあります。
エイビスのNo.2キャンペーンがはじまると、ハーツは、ものすごい量のテレビCMで対抗。
DDBのエイビス・チームは、上掲の広告で、軽くいなした。


これは、危険な広告でもあります。テレビCMを流している製品を誹謗しているともとられかねません。でも、ほとんどの生活者にとって、大半のテレビCMは、厄介ものであることも否めません。
彼らは、エイビスの主張のほうを支持したのです。
ハーツとはひと言もいっていないが、人びとは、ハーツのテレビCMを頭に描きました。


(無言の有言)。



When you're only No.2,
you try harder.
Or else.


Little fish have to moving all of the time.The big ones never stop picking on them.
Avis knows all about the problems of little fish.
We're only No.2 in rent a cars.We'd be swallowed up if we didn't try harder.
There's no rest for us.
We're always emptying ashtrays.Making sure gas tanks are full before we rent our cars.Seeing that the batteries are full of life.Checking our windshield wipers.
And the cars we rent out can't be anything less than spanking new Plymounts.
And since we're not the big fish,you won't feel like a sardine when you come to our counter.
We're not jammed with customers.




あなただって、2位だったら、さらに頑張るでしょ。
さもないと---。


小さな魚は、四六時中、動きつづけていないわけにはいきません。大きな魚が、彼らをつつきまわすのを止めないからです。
エイビスは、小さな魚の悩みを熟知しています。
私たちは、レンタカー業界で2位に過ぎないのです。一所懸命やらなかったら、呑みこまれてしまうに決まっています。
私たちに休息はありません。
私たちは、いつでも灰皿を空にしておきます(以下、少略)。


私たちは大きな魚ではありませんから、あなたがいらしても、イワシみたいなお気持ちにおなりになることもありません。
私たちのところは、お客さまが詰めかけているってほどではないのですから。


<<エイビス02 エイビス04>>

エイビス04

ハーツの応戦。



【訳文(大意)】

トラと猫

ある日、森の奥のガソリン・スタンドでトラと猫が出会いました。
猫「ねえ君。いつかどこかで会ったことなかったっけ? わかった、君はぼくにそっくりなんだ」
トラ「いくらかはね」
猫「ぼくは、君のとそっくりの尻ッ尾をもってるし、ひげも、4本の脚も、毛並みもそっくりだね」
トラ「たしかに。でも、全体的にいったら、どこかが違ってるぜ」
猫「まあ、とにかくもぼくは君の次ぎに偉いんだ」
つぶやきながら、猫は急発進していきました。(少略)

1年後、猫はトラに再会しました。
猫「見て見て。ぼくがどんなに大きくなったかを」
トラ「ありていにいうと、君はほんのちょっと大きくなっただけだよ。ぼくはとっても大きくなってる」


このコピーライターは、愛猫家が全米にいくらいるか知っていたのでしょうかねえ。
「1位のくせに、弱いものいじめをするな」との声も大きかったみたい。



If you have a complaint,
call the president of Avis.
His number is CH 8-9150.


There isn't a single secretary to protect him.He answers the phone himself.
He's a nut about keeping in touch.
He believes it's one of the big advantages of a small company.
You know who is responsible for what.There's nobody to pass the back to.
One of the frustrations of complaining to a big company is finding someone to blame.
Well,our president feels responsible for the whole kit and caboodle.He has us working like crazy to keep our super-torque Fords super.But he knows there will be an occasioanal dirty ashtray or temperamental wiper.
If you find one,call our president collect.
He won't be thrilled to hear from you,but he'll get you some action.




ご苦情がおありの節は、
エイビスの社長を呼び出してください。
番号は、CH8−9150です。


社長をガードするための秘書など、一人もいません。彼がじかに電話に出ます。
彼は、お相手するのが大好きなのです。
彼は、それを小さな会社の偉大な特典と考えています。
どのことについての責任はだれにあると、きちんとわかっています。責任を転嫁する人もいません。
さて、当社の社長は、何もかもについて、だれにもかれにも対して責任があると思っています。(少略)


彼は、あなたから苦情をいわれてもビクビクしません。それどころか、あなたに対して適切な処理をしてお返ししますよ。


この広告によって、タウンゼント社長にかかってきた電話は約400本(内容は不明)。 その結果が全従業員へ伝えられると、
「ボブ(タウンゼント社長の名前ロバートの愛称)を電話番にするな」
とばかりに、いっそう、点検やサーヴィスにはげんだのです。


米国に「タイガース」ってプロ野球チームは、あったっけ、トラきちのクリエイターさん?


エイビス05>>

エイビス05


エイビスの、2位にすぎないんだから、もっと一所懸命にやります---キャンペーンが浸透し、ホームパーティなんかで、「うちは9位だけど、あきらめないで、頑張らなくっちゃ、ね」
なんてジョークが出ていたころ---出たッあ!



No.2ism.
The Avis Manifesto.


We are in the rent a car business,playing second fiddle to a giant.
Above all,we've also learned how to stay alive.
In the struggle,we've also learned the basic difference between the No.1's and No.2's of the world.
The No.1 attitude is:"Don't do the wrong thing.Don't make mistakes and you'll be O.K."
The No.2 attitude is:"Do the right thing.Look for new ways.Try harder."
No.2ism is the Avis doctrine.And it works.


The Avis customer rents a clean,new Plymouth,with wipers wiping,ashtrays empty,gas tank full,from an Avis girl with smile firmly in place.
And Avis itself has come out of the red into the black.
Avis didn't invent No.2ism.Anyone is free to use it.
No.2's of the world,arise!




No.2主義
エイビス宣言


私たちは、レンタカー業界で、巨人の後塵を拝しています。
なかんずく、私たちは、生き残る方法について学ばねばなりませんでした(*)。
その闘争を通して、私たちは、この世における1位と2位の根本的な違いについても学びました。
1位の態度たるや「間違ってはいけない。失敗さえしなければ、それでいい」です。

2位の態度はこうです。「正しいことをやれ。新しい道を探せ。もっと一所懸命にやろう」
このNo.2主義が、エイビスの信条であり、実践もしています。
エイビスのお客さまは、ワイパーがちゃんと動き(少略)------の車を、エイビス・ガールの微笑つきでお借りになれます。
そしてエイビスも赤字を脱して黒字に転じました。
エイビスは、このNo.2主義に特許をとってはおりません。どなたでも自由にお使いになれまます。
万国のNo.2の同志よ、立ちあがれ!


(*)キャンペーンが立ち上がるときのエイビスの赤字1,250,000ドルは、キャンペーン後、2カ月で消え、ニューヨーク地区では1か月で51%も売り上げがアッブ。4年後(1966)の短期レンタルの売り上げは、3.5倍、69,000,000ドルに達していました。


<<エイビス04 エイビス06>>

エイビス06

社内モラルの点でも、営業成績の面でも、エイビスに追い上げられたハーツは、「トラと猫」の広告しかつくれなかった広告代理店との契約を打ち切り、小DDBと呼ばれていたカール・アリー社と契約しました。


それでできた広告が(下)。1位にふさわしく雑誌2ページ、エイビスを真似て色刷りはなし。



ここ数年来、エイビスはハーツが1位だと言いつづけてきました、
いまこそ、その理由をお話しします。


(抄意訳)
あなたが借りたいところで借りられる。
お届けする。
車種選びができる。
こんなサーヴィスが受けられる。
・・・ということを、これでもかというくらい、長々とのべている。


このハーツの広告が出たあと、コピーを書いたジム・ダーフィ社長をニューヨークのカール・アリー社に訪ねました。
そして、聞きました。


「ハーツの広告は、広告自体がすべてを物語っています。エイビスは長年にわたって、ハーツの客扱いが粗雑だと暗示しました。
この広告は「レンタカー大戦争」として有名な対決シリーズの第1弾でした」


もちろん、エイビスの2位キャンペーンがはじまって以来、これに対抗する有効な広告を、どうつくればいいか---アメリカの心あるクリエイターたちは、あれこれ、自分の中で悩んではいました。


(ただ、カール・アリー社J・ダーフィ社長がつくったように、自社側の利点を、なんのユーモアも交えないで、いかにも第1位って姿勢でいいきればいいってものでもない---とは、おもっていました。
見せ方ってのも大切です。業界1位の企業に勤めている人の中には、ハーツの態度に声援を送ったかもしれません。しかし、業界1位の企業に勤めている人と家族は、北米全人口の1パーセントいるかいないか、でしょう)



No.1が、エイビスにこだわる
のはなぜでしょう?


最近、No.1の広告が変わったのにお気づきと思います。(少略)
なぜでしょう?
No1の売り上げが減りつつあり、エイビスのそれが伸びつつあるからです(最近の主要26空港の統計による)。
もっと一所懸命にやります---は、成果をあげつつあるのです。(少略)

もし、エイビスがこの調子で努力していけば、1970年には、私たちは、No.1になっていることでしょう。


しかし、この広告による「レンタカー大戦争」は、どこかからの干渉により、言い合いをやめました。


<<エイビス05 エイビス07>>

エイビス07(了)



このエイビス・ボタンを
大学生の息子さんへ送ってほしいと
お思いになりませんか?


あるいは、お宅へ皿洗い機を設置にきた人に? または、あなたのシャツのボタンがとれたままで渡したクリーニング屋に?
この、「もっと一所懸命にやりますボタン」は、あなたのお知り合いのだれかの目を覚まさせます。私たちをそうしたように。
このボタンは、私たちをふるい立たせました、私たちはレンタカー業界で2位にすぎないのだということを思い出させたのです。(少略)
どこのエイビスの受付でもけっこう、ボタンを見てください。
もし、スローガンが効力を発揮していなかったら、裏かえしてボタンのピンをお確かめください。


キャンペーンが大成功を収めていたころ、最初にコピーを書いたボーラ・グリーンに会ったのです。
彼女は、言いいました。


「私のキャリアの中で、このキャンペーンは一つの重要な道標になりました。また、レンタカー業界の中での一つのマイルストーンになりました。
その上、さらに、世界中に非常に大きな反響を巻き起こしたものでした。キャンペーンを始めたときは、まさかこんなにまで有名になるなどとは、考えてもいませんでした。とにかく、私たちは、何かよい仕事をしたいとは思ったんですけれど、これだけ成功するとは、まったく想像もしていませんでした」


成功の1面---
短期レンタルの売り上げ

1962(キャンペーン前) 18,000,000ドル
1964 30,720,000ドル
1965 45,660,000ドル
1966 69,210,000ドル


ここで、ぼくはリチーチを打ち切りました。ぼくはリサーチャーでもなければ。経営評論家でもありません。


単なるコピーライターでした。
もし、エイビスのようなクライアントを担当したらどうすべきか。そのほかの例も吸収して自分流に換骨奪胎するための勉強でした。


終わりに、左端に20個のボタンのサンプルと、
最初のコピーを書いたポーラ・グリーン(中)と、アートディレクターのヘルムート・クローン(右)のポートレートを。



【訳文】

世界中で、私たちは一所懸命やってます。


最上左端は、アラビア語
最下右端は、ウェールズ語で、全部で20か国語。




Helmut Krone


VP and associate head AD at Doyle Dane Bernbach Inc.
Born in New York City in 1925.
Studied at School of Industrial Art(now High School of Art & Design).
Has been at DDB for twelve years.
And before joining DDB, Free-lancde AD's in several agencies.
The most notable campain include Volkswagen and Avis.


上記は、1967年にchuukyuuが編纂した(アイデア別冊)『ニューヨークのアートディレクターたち』(誠文堂新光社)のために、クローン氏が送ってくれた、簡潔なパーソナル・ヒストリー。

<<エイビス06 エイビス01>>